1月15日,当館において第8回邦人安全対策会議を開催しましたので,その概要をお知らせします。皆様の安全のためにご活用いただければ幸甚です。
1 開催の挨拶
会議冒頭,当館首席領事が以下の開催の挨拶をしました。
当地の全般的な治安情勢については,大きな反政府運動や,民族,宗教の違いに起因する暴動,テロ活動等の発生は,現時点では予見されていないが,昨年の犯罪件数は前年より増えており,当地在留邦人及び邦人旅行者が増加する中,邦人がひったくりやスリといった犯罪被害に遭う可能性は依然として高く注意が必要である。
政治面では,特段大きな問題はなく安定しているが,南シナ海の領有権問題等のため,反中国デモが当地で発生する可能性は否定できず,巻き込まれないよう注意する必要がある。また,何らかのきっかけで,突然反政府運動が盛り上がるような可能性も否定できないので,政治情勢については,今後とも注視してく必要がある。
2 昨年(平成25年)の邦人被害状況及び状況別具体的行動例について
当館担当領事が,昨年の邦人被害状況及び状況別具体的行動例について,以下の説明を行いました。
(1)ホーチミン市公安の統計
ホーチミン市公安によれば,昨年市内で認知された刑法犯は計6200件以上で,前年比+5%(+290件)と増加傾向にあり,特に,殺人,強姦,侵入窃盗,幼児誘拐,詐欺,横領は増加しているとのことである。なお,邦人被害が多いひったくりについては,前年比-24.6%(-100件)と大きく減少しているとのことである。
(2)昨年の邦人被害統計
ア 昨年の総件数は計149件で前年比-12件。旅行者,在留邦人数が増加している中,2年連続で減少。邦人の安全に対する意識が全体的に向上していると思われる。
イ 月別の被害状況では,昨年も含め例年,テト(旧正月)期間前後にあたる1月~3月中の被害が多いことから、今後特に警戒が必要である。
ウ 被害形態の中では「ひったくり」が計71件と依然として全体の半数近くを占めている上,負傷事例もあり最も注意を要する。次いで「スリ」が38件と約4分の1を占め,特に12月以降急増している。
(3)昨年の邦人被害の特徴
ア スリ被害の大幅増加(全年比約2倍以上)及び悪質化
イ 被害者の約7割が男性
ウ 1区中心部,特に,いわゆるバックパッカー街及びレタントン通り等の外国人向け飲食店が多い地域での夜間の被害が増加
エ 主にスマートフォン,タブレット端末,ノートパソコン所持者が狙われる
オ ホテル,レストランの出入りを狙った待ち伏せや,タクシー等の車両乗降時の隙を狙った犯行が依然として目立つ
(4)昨年の特徴的被害事例の紹介
ア ひったくり
夕方,トンドクタン通りの滞在先ホテルからゴーバンナム通りのレストランに向かって徒歩で移動中,後方から来たバイクの二人組に,たすき掛けにして所持していたバッグをひったくられ,その際,転倒して地面に頭部等を強打し重傷を負った。
イ スリ
夜中,レタントン通りのホテルに向かって徒歩移動中,二人組の女性にマッサージに誘われ,強い力で抱きつかれたが,スリの手口と思い大声を出して走ったところ,被害に遭わずに済んだ。犯人の女性は近くにいたバイクの後ろに乗り逃走した。
ウ 強盗
午後10時頃,デタム通りバイクに乗った2人組の女性にマッサージに誘われ,バイクで連れて行かれたホテルにおいてマッサージが始まったが,施術がいいかげんだったため怪しいと思い,途中で帰ろうとしたところ,突然,別の男女が部屋に入ってきたため,逃げようとしたが,殴り合いになった挙げ句,首にかけていたカメラを強奪された。
エ ブラックマネー詐欺
アフリカ某国の政府高官等を装った外国人(黒人系)に話しかけられ,政情不安などの理由で海外へ億単位の資産を隠すために米ドル紙幣を黒くしたと説明受け,実際にカバンから取り出した黒い紙をある薬品に浸しそれが100ドル紙幣に変わる様子を見させられ,カバンの大量の黒い紙が100ドル紙幣であることを信じさせられた上で,「すべてのお札を変えるには大量の薬品が必要で,薬品は高価なのでお金を貸してほしい。すべてのお札が元に戻れば,謝礼をあげる。」と依頼され多額の現金を渡してしまった。
オ 傷害
日系企業幹部である在留邦人が,ホーチミン市郊外の工業団地から帰宅するため車両で同工業団地を出たところ,バイクに乗った二人組が突然後方から同車両に急接近し,同在留邦人に向かって至近距離かられんがを投げつけたところ,れんがは車両窓ガラスを突き破り,同人の肩等に当たり,負傷するに至った。
(4)状況別具体的行動例
ア 外出準備
○手ぶらを最優先
財布,携帯電話等の貴重品はズボン等のポケットにしまい,極力手ぶらで外出する。
○鞄の選択
バッグ類を携行する必要がある場合は,両肩に掛けられるリュックタイプの物を選択する。
○女性の装飾品
目立つネックレス,イヤリング類の装飾品を極力着用しない(特に金製の物)。
○必要最小限の携行
パスポート,携行の必要のない現金及びクレジットカード等は,自宅(滞在先)内のセーフティボックス,スーツケース等の施錠設備内に収納しておく。
イ 移動手段の選択
○自動車での移動を優先
タクシー等の自動車によるドアツードアでの移動が最も理想的。
○バイク
自身でバイクを運転する場合(50cc以上は要免許)でバイクに荷物を載せて移動する場合,確実に荷物とバイクとを結束させること。また,バイクタクシーは,信用のおける特定のドライバーがいる場合等を除き利用しない。
○バス又は,徒歩移動
ひったくり,スリ,交通事故等に遭う可能性が最も高いというリスクがあることを前提に携行品等を選択し,警戒心を持って外出する必要がある。
ウ 自宅(滞在先)からの外出
○屋外に出る際の警戒
屋外に出る直前(あるいは出た直後),一旦立ち止まって周囲(外)を見渡し,自分を注視している者がいないかを確認する。
○タクシー等自動車利用の場合
当該車両が到着するまで屋外に出ない。
○徒歩の場合
徒歩で外出する場合は,自宅(滞在先)を離れた後,時々後ろを振り向く等して,後をつけている者がいないか確認する。
エ 自動車での移動
○乗車時
ドアは極力ドライバー,警備員等に開けさせ,自身の視線は,ドアノブや座席に向けず,周囲の警戒に向けること。
○降車時
ドアを少し開けて一呼吸置き,不審なバイク等が接近してこないのを確認してから,周囲を警戒しつつ降車し,すぐに建物内に入る。
○安全対策の強化
会社等の車両で通勤(帰宅)する場合は,更に
・使用車両,ルート,時間帯を一定にしない
・窓ガラスの強化(フィルムの貼付等)
等の対策を講じるのが理想的。
オ 徒歩移動時
○スマートフォン,タブレット端末等は極力人前で出さない
○バッグ類を携行する場合
理想はリュックタイプの前掛けであるが,少なくとも道路側に持たないようにして建物に沿って歩くこと。※たすき掛けは怪我をする可能性が高く勧められない。
○話しかけ等への対応
見知らぬ者が話しかけて(接触して)きた場合,極力相手にせず,速やかにその場を立ち去るようにする。
○対向バイクへの対応
道路横断の際等,自分に向かってくるバイクに対しては,運転手の目を見ながら警戒すること。
○夜間の帰宅,他店舗への移動
特に目的地付近においては,付近で待ち伏せされている可能性が高い最も危険な箇所であるとの認識のもと,周囲を見渡し警戒しながら屋内に入る。
カ タクシー利用時
○自分では拾わない
タクシーは自身で外に出て止める行為は極力控え,店員や警備員等に呼んで(止めて)もらい,タクシーが到着してから屋外に出ること。
○自分でタクシーを拾う場合
頼める者がいない場合は,最寄りの大手タクシー会社タクシーの待機場所(高級ホテル,ショッピングセンター付近等)まで移動する。通りで流しのタクシーを拾わざるを得ない場合は,大手会社のものを選択した上で,当館HPの「ぼったくりタクシー防止カード」を活用して車両番号を控える等,ドライバーへの牽制も怠らないこと。
キ 店舗内等において
○携行品に対する注意
バッグ類は常に体に密着させておく。
屋内であっても,スマートフォン等の貴重品をテーブルの上等に置きっ放しにしない。
○所持金(財布)に対する注意
会計,現金の引出し,両替の直後等は,誰かが自分を注視していないか確認する。
○脱衣場ロッカー利用時の注意
財布等の貴重品の保管は避け,ポーチやビニール袋等を使用し自身で携行する。
○飲食店等退店時の注意
夜間,特に飲酒後は,近距離であってもタクシーを呼んでもらう等,自動車での帰宅(移動)を心がける。
ク 自宅アパート等において
○貴重品等は極力置いておかない
自宅を長期不在にする場合,サービスアパートメント等においても,極力高額現金や貴重品を置いておかないようにする。
○セーフティボックス利用時の工夫
セーフティボックス内に貴重品等を収納したまま長期不在にする場合は,施錠後,テープや紙等を周囲に貼付した上で署名する等して封印し,開扉の証跡が残る(開扉しにくい)状態にしておく等の工夫が必要。
○侵入対策
既存の玄関扉のチェーンロック等の施錠の励行の他,自身が就寝し,貴重品等も保 管する寝室等の扉については,既存の鍵に加え,自身で鍵を追加する等の警備措置の追加が望ましい。
ケ 被害遭遇時
○生命・身体の安全を最優先に
特に,ひったくり,強盗等の被害に遭った場合は,決して抵抗したり,追いかけたりしないこと。
○関係機関等への届出
・公安
概ね48時間以内に管轄公安へ被害者本人が,ベトナム語の通訳を用意して届け出る。
・カード,保険,携帯電話会社等
サービス停止措置等の被害拡大防止措置, 再発行,保険手続の確認等。
・総領事館
旅券又は渡航書の発給のほか,関係当局への照会・申し入れ,関係連絡先の教示等の側面支援を行う。
3 注意喚起周知の協力依頼
当館作成にかかる注意喚起資料「当地滞在,在留中の邦人の皆様へ」を出席者に配付の上,周囲の方等への周知の協力依頼を行いました。
4 総領事館からのお知らせ等
当館担当領事が,当館からのお知らせとして,以下のとおり説明しました。
(1)在留届の提出について
ア 在留届は,旅券法第16条により,義務付けられており,当国内において,事件や事故,自然災害等の緊急事態が発生した際,当館よりの安否照会等の確認をする上で大変貴重なデータとなるため,3ヵ月以上滞在する方は提出お願いしたい。なお,登録メールアドレスはスマートフォンあるいは自宅PCのアドレスでお願いしたい。
イ 「在留届」の記載事項に変更があった時や帰国や多の国へ転勤する際にも,必ず当館に連絡願いたい。帰国等の連絡がないと緊急事態にあたり,帰国者等の安否確認にも時間を割かれることとなり,実際の在留者の安否確認作業に支障をきたすことになる。実際に昨年11月上旬にフィリピンを襲った大型台風30号(アジア名:ハイエン)の際の安否確認は,難航し,全ての方(既に帰国や転居されていた方を含め)の安否確認は約3週間を要している(連絡方法は、電話、FAX(08-3933-3525)、メール(ryouji@hc.mofa.jp)でも構いません。)。
ウ 在留届は,インターネット(http://www.ezairyu.mofa.go.jp)での電子登録も可能であるため,社員の方々や周囲の方々にも届出励行の呼びかけをお願いしたい。
(2)テト(旧正月)期間中の旅券の取扱いについて
ア ベトナムへの入国に際しては,3ヶ月以上の有効期間が必要であり,それ以下の場合,入国を拒否されるケースもあり,不要なトラブルを避けるためにも,残存期間が3ヶ月以上の余裕のある状態で入国されることをお勧めする。特にテト(旧正月)期間中にベトナムから出国される方は注意が必要。
イ 9連休となる今次テト休暇中(1月28日(火)~2月5日(水))は,旅券,帰国のための渡航書の発給については,ベトナム側入管が閉庁している関係もあり,真に人道案件と判断されるもの以外は対応が出来ないところ,ご承知おきいただくとともに管理の徹底をお願いしたい。
5 意見交換
出席者から以下の意見交換がなされました。
(1)商工会
昨年末,ホーチミン市人民委員会とのラウンドテーブル会議においても在留邦人の安全対策に関する申し入れを行っており,特に届出の際の日本語対応について強く申し入れを行ったが,実現は困難な模様であり,英語での対応が精一杯の様である。
(2)政府関係機関
ア スリ被害が増加しているとのことであるが,特定の犯行グループ等が存在するのか。
(当館)
男性を狙った女性(あるいは女装した男性)によるスリ手口は従来からあるもので目新しい手口ではないが,ここ最近,多発している状況から,複数の犯行グループが,夜間,日本人男性等がよく利用する飲食店やアパート等の付近で待ち伏せの上,犯行に及んでいるものと見られる。
イ タンソンニャット空港からのタクシー移動の際,ぼったくり等のトラブルが多いと感じている。安全な乗車方法があれば教示願いたい。
(当館)
同空港では,到着ロビーに近い1階のタクシー乗り場では,安全と言われる大手会社のタクシーの利用は困難で,出発ロビーのある2階まで上がっていなければならないといった不便な状況である。当館としては,当面の措置として,多少割高となるが,タクシーチケットを購入しての乗車や「ぼったくりタクシー防止カード」の活用等によるドライバーに対する牽制等の手段を案内しているが,今後,更なる対応措置について検討したい。
(3)日本人学校
総領事館の協力を得,定期的に避難訓練を実施している。今年度は,総領事館から助言を受けていた防犯カメラの設置が実現できることとなった。
(4)航空業界
空港での安全なタクシー乗車方法について,到着後,2階までの移動の労力を厭う方等に対しては,お金はかかるが,ホテルの送迎サービスを利用するよう案内している。
(5)旅行業界
ア スリ被害については男性の日本人スタッフも被害に遭っており,被害が増加しているのを感じている。
イ 公安への被害の届け出を勧めても難色を示す顧客に対してはどのように対応すればよいか。
(当館)
できれば被害の届出を行っていただきたいが,最終的には顧客の意向を尊重していただければと思う。その様な場合でも,当館としては,安全対策上,邦人被害の実態を把握したく,当館への連絡はお願いしたい。
ウ 被害に遭った顧客の支援はできる限り行っていきたいと考えている。また,バックパッカー街での被害が多いとのことであるが,旅行会社等の手配を介さないバックパッカー等の旅行者は,当地旅行者全体の3~4割を占めるものと思われ,こうした旅行者に対する注意喚起が課題と感じている。
エ 到着した顧客に対してはガイドから注意喚起を行っているが,その際,「外でスマートフォンを使用する場合は隠すように建物に向かって使用してください。」等とより具体的な助言を行うよう工夫している。
(6)ホテル業界
ア 顧客が被害に遭った際の支援も重要であるが,本日頂いた資料等をもとに被害防止のための注意喚起も行っていきたいと思う。
イ 総領事館の説明のとおり,最近は,ひったくりは減り,男性のスリ被害が増加している印象を受けている。
ウ 大手会社を模倣した偽タクシーによるぼったくり対策として,顧客には「市内中心部の移動で10万ドン以上かかることはなく,私服の運転手は偽タクシーである」等と具体的な助言を行っている。大手会社のタクシーでもぼったくり被害に遭った顧客がいたが,車両番号を控えていたため,会社に通報の上,賠償を得ることができた事例もある。
(7)フリーペーパー業界
ア 総領事館が発出する注意喚起等については,フリーペーパーの紙面のみならず,ホームページやフェイスブック等にも掲載し周知に努めている。
イ 邦人以外の当地外国人の被害状況は把握されているか。他国籍者との比較で邦人被害件数が突出して高い等の事実を周知することでより効果的な啓蒙,注意喚起に繋がるのではないかと考える。
(当館)
正確な件数までは把握していないが,各国領事団等との情報交換を通じ,当地では,韓国,オーストラリア国籍者の被害が邦人同様多いという印象を受けている。今後,こうした情報も注意喚起に活用していきたい。
(8)医療業界
ア ひったくり被害に起因する患者の数は確かに減少しているが,転倒してバッグごと引きずられて負傷した場合,広範囲にわたる擦過傷を負う上,治療にも時間を要するため注意が必要である。
イ 脳の傷病の場合,当地外資系クリニックでは手術対応できる専門医がいないことから,チョーライ病院の利用をお勧めする。同病院はローカル病院で病床数不足から患者等が常に廊下に横たわっている等,邦人にとってはあまりよい印象はないと思うが,脳の専門医がおり,その医療水準も非常に高く信頼できる病院である。
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