7月11日,当館において第5回邦人安全対策会議を開催しましたので,その概要をお知らせします。皆様の安全のためにご活用いただければ幸甚です。
1.開催の挨拶
会議冒頭,当館首席領事が以下の開催の挨拶をしました。
現在のところ,ベトナムの国内情勢に,大きな混乱はありませんが,インターネット等の情報伝達ツールの発達により,国民の組織化が容易になっている現状においては,国民の間に強い不満が生じた場合には組織的な反政府運動に発展する可能性も否定できません。「アラブの春」の例もあり,国内情勢には常に注意を払う必要があります。
また,一般犯罪については,ベトナム公安は,基本的には被害者からの捜査依頼がなければ捜査に着手しないというスタンスをとっており,必ずしも犯罪被害に対し主体的・積極的に対処する体制とはなっていないので,各人が常日頃から犯罪に巻き込まれないよう留意することが重要です。本会議を通して各種犯罪被害に関する情報を共有・発信していただき,犯罪予防を含めた邦人の安全対策に還元していただくようお願い申し上げます。
2.ベトナム公安省職員による講演
ベトナム公安省職員が,ホーチミンの治安情勢,被害遭遇時における対処要領等について以下の講演を行いました。
(1) |
ホーチミンの治安情勢 |
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現在ホーチミン市タンソンニャット空港では,毎日約1万人の外国人が入国していますが,その内,日本人は多い日で900人を超えることもある等,入国者数は多く,それに伴い犯罪被害に遭うケースも残念ながら少なくありません。
外国人を含めた犯行グループが日本人を狙う理由については,まず,日本人が,海外においても日本にいるのと同じ感覚で警戒心なく行動しているということと,身なり及び規範的行動等から日本人であるということが犯行グループにおいて識別しやすいということが挙げられます。犯行グループは日本人の行動パターンを研究しており,旅行者は特に注意が必要です。
日本人を含めた外国人旅行者がよく被害に遭うのは,「いかさま賭博」,「ぼったくりバー」,「ひったくり」等です。ひったくりは被害が多く,特に,女性の歩行者やバイクの後部座席の者が被害に遭う事が多いです。殆どが1区内の人気のない場所で発生しています。携帯電話を狙われるケースが多く,私自身も外で使用中,被害に遭ったこともあり,外での携帯電話使用の際は警戒が必要です。ホーチミン市公安も私服を含めた警察官の増強配置等,ひったくり対策には力を入れており,一時的に被害は減少しましたが,残念ながら犯行グループの撲滅には至っておらずベトナム人も含めた被害は依然として続いているのが現状です。
タクシー内も決して安全とは言えません。韓国人の被害例ですが,乗車中のタクシーが赤信号停止していたところ,女性2名がいきなりドアを開けて入ってきて隣に座り込み約1分の間に所持金品を盗まれたという事例もあり,タクシー乗車の際はドアロックを励行するようにしてください。
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(2) |
犯罪被害遭遇時の対処要領等 |
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犯罪被害に遭ったときの対処要領については,まず冷静になることです。そして強盗や ひったくり等の場合は,犯人の要求に従い抵抗せず,刺激しないことが大切です。
犯人の特徴(凶器の種類,身長,服装,髪型),犯人の交通手段,犯人がどの方向から来てどの方向へ逃走したか,車両(バイク)の特徴,ナンバー等の情報が届出の際に必要に
なりますので可能な限り覚えておいてください。
犯人が去ったら,まず「113」に電話し,被害に遭った場所,自分の電話番号の 他,前述の犯人の特徴等を報告し,指示に従って下さい。被害届は基本的に管轄の地方公安に届け出ることになります。今回,ホーチミン市1区内の各地方公安等の住所・電話番号の一覧を作成したので参考にしてください。(公安連絡先一覧参照)。
また,現在,外国人による保険金目当ての虚偽申告事案が多いため,事実確認ができず,同種事案と見られた場合,公安は被害届を受理しない場合があります。(これに対し,当館から被害にあったことが確認された邦人の被害届は確実に受理するよう申し入れを行ったところ,ホーチミン市公安の担当部局に伝える旨の回答がありました)。
公安省としては,引き続き,日本国総領事館等の関係機関と協力して各種犯罪対策を推進していきたいと考えております。
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3.平成24年上半期における邦人犯罪被害及びトラブル等の特徴
当館担当領事が,パワーポイントを使用しつつ,当地における平成24年上半期における邦人犯罪被害及びトラブル等の特徴について,以下の説明を行いました。
(1) |
犯罪被害にかかる邦人援護件数(月別)
計94件の援護件数,昨年同時期比で+4件,テト(旧正月)期間前後に被害が集中。昨年は8月以降の夏休み・観光シーズンにかけて被害が増加しており,今後も注意が必要。
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(2) |
犯罪被害にかかる邦人援護件数(形態別)
幸いにして凶悪犯罪の被害はなし。7割が窃盗犯で,バイクによるひったくりは44件と全体の半数近くを占める。スリ被害は増加。
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(3) |
ひったくり被害
ア |
平成24年上半期の特徴点
(ア) 旅行者・出張者等の短期滞在者の被害割合が増加(約8割)
(イ)スマートフォン,タブレット端末,ノートパソコン,デジタルカメラ所持者が狙われる
(ウ) 夕方から夜間にかけての被害がほとんど
(エ)邦人旅行者が利用するホテル,在留邦人が居住するアパート出入口付近において,出入りを待ち伏せする手口が目立つ
(オ)バッグ等をたすき掛けにして所持していた被害者が負傷するケースが散見 |
イ |
特徴的事例紹介
タブレット端末所持者の被害例,夜間の女性被害例,ホテル・アパート付近での待ち伏せ事例等を紹介 |
ウ |
対策
(ア)犯行グループから狙われないために
- 徒歩で移動する場合は極力手ぶらで外出する
- 携行品がある場合,タクシー等自動車で移動する
- バッグ類を所持して徒歩で移動する場合は,道路側に持たず,建物側を歩くこと
※たすき掛けは,怪我をするケースが多く勧められない
- 高額物品・現金は人前で出さず,見られないように
- 特に,ホテル,アパート等の出入りの際は,自分を注視・尾行する者がいないか周囲を警戒する
- 女性は夜間単独での外出を控え,目立つ高価な装飾品を身につけないよう心がける(特にネックレス)
(イ)被害を最小限に抑えるために
- 現金,カード類,旅券等の貴重品を一つのバッグ等にまとめて所持しない
- 万が一被害に遭った場合,決して追いかけたり,抵抗したりしないこと
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(4) |
スリ・置き引き被害
ア |
平成24年上半期の特徴点
(ア)殆どが男性の財布をねらった犯行(約8割)
(イ)テト(旧正月)期間前後に被害が集中
(ウ)「話しかけ」,「身体への接触」等で注意をそらした後,窃取する手口が目立つ
(エ) 高額現金所持者と露見した場合,尾行される等,あらゆる手口で狙われる可能性がある
(オ)置き引きは,空港,ホテルロビー内で発生 |
イ |
特徴的事例紹介
「話しかけ」・「身体への接触」によるスリ手口,高額現金所持者の被害例,ホテルロビーでの被害例等を紹介 |
ウ |
対策
(ア) |
見知らぬ者が話しかけて(接触して)きた場合,警戒心を持つとともに他の仲間の動きにも注視する(殆どの場合,相手にしない方が無難) |
(イ) |
人が多く集まる観光名所等では特に警戒心をもつ |
(ウ) |
物売りの子供達が近寄ってきたら相手にせず,すぐにその場を離れる |
(エ) |
現金の引出し,両替,会計の後等は,誰かが自分を注視していないか確認する等,警戒心を持つ |
(オ) |
空港やホテルロビー内においても,貴重品の入ったカバン等は肌身から離さない。または,少なくとも自分の視界内に入れておく |
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(5) |
いかさま賭博被害
ア |
特徴的事例紹介
道案内名目で犯行グループから話しかけられた女性旅行者の未遂事例の紹介 |
イ |
対策
(ア) |
どんな理由であれ,見知らぬ者から話しかけられた場合,警戒心を持ち,安易に信用しない(殆どの場合,相手にしない方が無難) |
(イ)
(ウ)
(エ) |
どんなに親切そうに見えても見知らぬ者に安易について行かない。
賭博の話をもちかけられたら,きっぱりと断り,その場から立ち去る。
必要最小限の現金のみを持ち歩き,クレジットカード等貴重品は安全な場所に保管しておく。 |
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(6) |
タクシーにかかるトラブル
ア |
特徴的事例紹介
ぼったくりタクシー被害例,バイクタクシーによる窃盗事例等 |
イ |
対策
(ア)空港から利用する場合は,市内までのタクシーチケットを購入して利用する。
(イ)レセプションから呼んだタクシーまたは,大手ホテル玄関に待機しているタクシーを利用する
(ウ)流しのタクシーを拾う際は,大手会社を選び,当館HP掲載の「ぼったくりタクシー防止カード」を活用する。
(エ)ベンタイン市場等の観光名所付近で客引きしているタクシーへの乗車は避ける
※大手会社のタクシーを模倣した偽タクシーの可能性大
(オ)バイクタクシーやシクロは極力利用しない |
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(7) |
レンタルバイクにかかるトラブル
ア |
特徴的事例紹介
レンタルバイクの盗難事例,契約トラブル事例 |
イ |
対策
(ア) |
ベトナムでは50CC以上のバイクを運転する際,ベトナムの運転免許が必要 |
(イ) |
レンタルバイクの殆どは50CC以上のバイクであり,旅行者等の短期滞在者はレンタルしない方が無難
※日本免許からの切り替えは就労等3ヶ月以上の長期滞在者のみ可能
※無免許運転で人身事故を起こした場合,重罪に問われ,身柄を拘束される可能性も |
(ウ) |
レンタルに際しては,レンタル契約内容(レンタル期間,故障・盗難時の賠償)を当事者間で具体的に確認した上で,契約書を作成しておく |
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(8) |
まとめ
ア |
ホーチミンでは,窃盗,特にバイクによるひったくり被害の発生が多く,遭遇した場合,負傷する可能性が高いため,注意を要する |
イ |
日本人は犯行グループから格好の犯行対象として選定されており,外出の際には常に狙われているとの危機意識を持つ必要がある |
ウ |
ひったくりを中心とした各種犯罪被害等から身を守るためには,特に
(ア)手ぶらでの外出若しくはタクシー等車での移動
(イ)見知らぬ者からの話しかけには応じない
の2点を励行する必要がある |
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4.邦人に対する路上強盗未遂事件発生に伴う注意喚起
当館担当領事が,7月8日(日),ホーチミン市内で発生した邦人に対する路上強盗未遂事件について,当館HP掲載の注意喚起文に基づき説明しました。
5.総領事館からのお知らせ等
当館担当領事が,当館からのお知らせとして,以下のとおり説明しました。
(1) |
デモに関する注意喚起
7月1日(日),ホーチミン市内において,対中国抗議デモが行われましたが,怪我人等は出ず平穏に終わりました。翌7月8日(日)はホーチミン市ではデモが行われなかったものの,今後の中国の動向次第では抗議行動が活発化する恐れもあり,適宜情報収集に努めてください。 |
(2) |
夏休みを利用した海外渡航に関する注意事項
海外旅行に際しては,事前に渡航先の日本大使館,総領事館のHP等で渡航先の安全情報等を事前に収集しておいていただきたい。また,旅券の有効期間が6ヶ月未満の場合,入国を拒否されるケースもあり,不要なトラブルを避けるためにも,残存期間が6ヶ月以上の状態で入国されることをお勧めします。更新は有効期限が1年未満になった時点から可能です。 |
(3) |
改正出入国管理法について
改正出入国管理法が7月9日に施工されました。主要な改正点は,外国人登録法を廃止し,正規滞在者だけを住民登録することしたこと,中長期在留者に対する便宜のため,出国1年以内の再入国許可手続きを不要とする「みなし再入国許可制度」を導入した点です。 |
(4) |
在留届について
現在,当館管轄地域における在留邦人数は,在留届上は約5200人ですが,実際の在留者数よりも相当少ないと見られます。海外に3ヶ月以上滞在する場合,在留届は,旅券法上の届出義務がある上,新型感染症対策のタミフル等の薬の手配は在留届の数に基づいて算定される等,貴重なデータとなります。インターネットでの電子登録も可能であるため,周囲の人にも届出励行の呼びかけをお願いしたい。 |
(5) |
在外選挙人名簿登録について
海外で日本の国政選挙の投票をするためには,居住地を管轄する在外公館での登録が必要であり,その登録には時間がかかります。選挙実施が分かった時点で申請されても間に合わない可能性があるため,早期の登録をお願いしたい。 |
6.意見交換・質疑応答
出席者から以下の意見交換,質疑等がなされました。
(1) |
旅行業界
ア |
ひったくり被害に遭う顧客が多く,毎週1~2件位発生している状況。 |
イ |
タクシーにかかるトラブルも多く,旅行者に対して総領事館HP掲載の「ぼったくりタクシー防止カード」を印刷して配付している。 |
ウ |
公安への届出に同行した経験から,公安に被害届を受理してもらうためには,被害場所は,通り名だけではなく番地が必要で,犯人(バイク)がどこから来てどの方向へ逃走したかを具体的に報告する必要があることと実感した。 |
エ |
ファムグーラオ地区の代理店で偽の格安航空会社のチケットが販売されていたという事例があった。 |
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(2) |
ホテル業界
ア |
ベンタイン市場付近で顧客が鞄を切りつけられた事案が発生しており,ネックレスやバッグ類を所持して外出する顧客には,スタッフから注意喚起を行っている。 |
イ |
ツアー案内名目で日本人女性スタッフ宛にいたずら電話がかかってくることがある 。犯人は日本人男性と思われ,電話番号を変えてかけてくる(当館から,公安への届出に向けた録音・記録化等の証拠化措置を指導するとともに,注意喚起の発出を予定している旨説明しました)。 |
ウ
エ
オ |
顧客向けに日本語,英語の注意喚起文を作成し,ひったくり,いかさま賭博等に対する注意を呼びかけている
断り続けてもずっと後をつけてくる物売りによるスリ被害が散見される。
チェックアウト後の外出時の盗難被害防止のため,旅券をフロントで預かるサービスを実施している。 |
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(3) |
政府関係機関
年に2回ハノイ事務所とも合同で安全会議を実施しており,総領事館からの安全情報 もハノイ事務所に転送し情報の共有を図っている。 |
(4) |
教育関係機関
ア |
総領事館の安全情報を子供達にもわかりやすい言葉で伝えている。 |
イ |
昨年,構内でノートパソコンを狙った窃盗事件が発生したため,警備員による巡回強化及びチェックリストの作成を行い,現在,防犯カメラの設置を検討している。 |
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(5) |
フリーペーパー業界
総領事館の安全情報を掲載しているが,今後は,他の業界の方からも安全情報の提供があれば掲載してきたいと考えている。 |
(6) |
医療業界
ア |
ひったくり被害者の怪我の特徴は,広範囲にわたる擦過傷と指の骨の骨折である。
擦過傷は,バッグ等をたすき掛けにしていたために,そのまま転倒して引きずられて生じたものと思われる。また,指の骨折は,バッグ等を手で把持していた場合,ひったくられた際,反射的に指に力が入ってしまうことに起因していると思われ,バッグ類の所持の仕方にも工夫が必要と考える。 |
イ |
保険について,ひったくりや交通事故等で第三者が絡まない被害の場合,公安の被害証明がないとキャッシュレス対応できない場合があるので注意が必要である。 |
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(7) |
質疑応答
ア |
航空業界
明らかに何らかの犯罪被害に巻き込まれたと思われる顧客から帰国便の早期手配を要求されることがあるが,公安や総領事館への届出を勧めても拒否された場合,どのように対応すればよいか
(応答)
基本的には被害者の意思を尊重していただきたい。帰国後に当館HPからメールで事後報告する手段もあることをお伝え願いたい。 |
イ |
旅行業界
空港内で出国審査後に犯罪被害やトラブルに巻き込まれた場合,どこに届け出ればよいか。
(応答)
まず,一次的に空港施設の職員へ相談すべきです。事案によっては,空港側から公安当局に通報することになります。 |
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