ベトナム南部ビンズオン省の魅力―外資企業受け入れの老舗、職住近接型の暮らし―

令和4年1月25日
図1:ビンズオン省(出典:ベトナム政府HP)
 在ホーチミン日本国総領事館が管轄するベトナム南部(フーイエン省、ダクラク省以南)の魅力については、先般7月にご紹介したとおり(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page22_003659.html)、特色豊かな地方省・市が存在します。日本ではあまり名前が知られておらず、なじみの薄いベトナム南部地方省・市においても日本企業に対する進出期待は高く、本稿では、皆様に南部地方省市のことを知っていただくという視点で、ホーチミン市からみて東部に位置するビンズオン(Binh Duong)省について経済面を中心にご紹介します。
 初めに、同省においても新型コロナウイルス第4波の影響は大きく、7月以降の感染者急増を受け厳格な社会隔離措置が導入されました。その結果、8月の鉱工業生産指数(前年同月比)は-12.6%と大幅減を記録し、9月時点で省内の約4割の企業が操業を一時停止しました。10月に入り、ホーチミン市をはじめ同省でも諸措置が緩和され、ポストコロナの経済回復に向け、感染拡大防止対策を取りつつ経済活動が行われています。
 
1 ベトナム南部経済の一翼を担う外資受け入れ先の老舗
 ビンズオン省はホーチミン市の東部に市しており、2(1)で詳述するとおり、90年代よりドンナイ省とともに、外資企業に選ばれ続けている省です。省都のトゥーザウモットからホーチミン市タンソニャット国際空港までは国道13号線を車で南に下り約1時間と、ホーチミン市へのアクセスにも優れています。
 同省の人口は約250万人、人口増加率は前年度比5%増と全国第1位です(2020年)。人口について都市・農村別にみてみると、都市に住む人口の割合(都市化率)は84%と、ホーチミン市の80%及びドンナイ省の44%を上回っています。また流出入人口について、直近5年でみて南部各省市のうち唯一2桁の増加率を記録しています。これらの数字には、2(3)で後述するとおり、近年、同省は働く場所としてだけでなく、暮らす場所としての魅力を兼ね備えてきたことが反映されています。
 同省のGRDPは127億米ドル(2020年)。これはベトナム経済全体の4%に相当します。一人当たりGDPは6,818ドル(2020年)です。ベトナム統計総局の生活水準調査では同省の1人あたり年間所得は全国第1位の3,654ドル(2020年)。収入源別でみると、給料・賃金が7割ほどであり、同省に企業が集積し、雇用者報酬が住民の大きな収入源となっていることがみてとれます。
 また、ベトナム商工会議所(VCCI)がベトナムで活動する民間企業(外資含む)の声をもとに作成している省・市別の競争力指数ランキング(2020年)では、63省・市中、全体で第4位、南東地域ではホーチミン市を抑え第1位と、ビジネス界からもその投資環境が評価されています。
 
2 ビンズオン省の魅力
 同省の経済構造は、農林水産業が1割未満、製造・建設業が約6割、サービス業が約3割をそれぞれ占めています。第1次産業の占める割合が小さく、製造企業を中心とした企業の集積地として第2次産業の比重が大きい点が特徴です。同省は、工業団地の集積と多数の外資企業の進出により発展した場所であり、現在ではベトナム南部を代表する経済産業拠点となっています。
 
(1) 海外直接投資受入額(累積)は全国第2位
 前述したとおり、ビンズオン省は90年代より外資企業を多く受け入れており、今も外資企業の進出先として選ばれ続けている省です。1988年~99年にかけて実施された海外直接投資をみてみると、累積投資額は全国第5位の1,677百万米ドルです(第1位ホーチミン市(9,991.3百万米ドル)、第2位ハノイ市(7,763.5米ドル)、第3位ドンナイ省(3,439.0百万米ドル)、第4位バーリア=ブンタウ省(2515.9米ドル))。2020年時点の累積額では全国第2位の37,579.6百万米ドルへと躍進、またビンズオン省当局によると2021年11月15日時点の累積投資件数は65の国・地域から4,011件、外資企業の投資先としての魅力を維持しています(第1位ホーチミン市(48,222.5米ドル)、第3位ハノイ市(36,236.7米ドル)、第4位バーリア=ブンタウ省(32,742.7米ドル)、第5位ドンナイ省(31,754.6米ドル))。
 同省には29の工業団地(2020年)がありますが、工業団地の入居費用はホーチミン市の工業団地と比較すると安く、また同省には今後も工業団地等産業用施設を開発できる土地があると言われています。日系企業は90年代より製造業を中心に、国道13号線沿いでホーチミン市へのアクセスが良いベンカット市、省都のトゥーザウモット市、タンアン市を中心に集積しています。1,000社以上の会員企業からなるホーチミン日本商工会議所(JCCH)のビンズオン部会に所属する会員企業数は134社(2021年3月時点)と同商工会に13ある部会のなかで最大です。
 
(2)道路・鉄道整備による連結性向上に期待
 同省では国道13号線のほか、南部主要経済圏(ホーチミン市、ロンアン省、ビンズオン省、ドンナイ省)をつなぐ環状道路3号線及び4号線の整備が2025年の竣工を目標に進められています。また、同省南部地域は、日本政府のODA(政府開発援助)で整備が進められているホーチミン市都市鉄道1号線の沿線に近い地域でもあり、同鉄道が開通することで南部最大の商業都市であるホーチミン市へのアクセスが改善され更に便利になることが見込まれる他、将来的にはホーチミン市都市鉄道1号線からの鉄道網の延伸や道路インフラの更なる整備により省都トゥーザモット市とホーチミン市との連結性の向上に向けた計画が聞かれるなど将来的な展望が期待できそうです。
 
(3)職住近接型のまちづくり
 2014年、新省庁舎が省都トゥーザウモット市内北部の「ビンズオン新都市」に移転されたことに伴い、公共交通機関、医療機関や教育機関など暮らしに必要なインフラ整備が加速しています。当館関係者も「ビンズオン新都市」を訪問する毎に、新たなビルや施設が建設されていることを目の当たりにし、驚くほど急ピッチでまちづくりが進んでいます。日本政府は同省における公共交通指向型開発(Transit Oriented Development)推進などに関しODA(政府開発援助)による支援を実施しており、日本でのまちづくり経験を有する日系企業も同省の計画に参画し中心的な役割を果たしています。今後、インフラ整備が更に進み、働くだけでなく豊かな暮らしが実現できるまちとして、省の魅力が高まることが期待されます。これまで、ホーチミン市から同省に所在する工業団地に片道1時間強かけて通勤していた労働者の一部が同省に生活の拠点を構えることで、職住近接型の暮らしを実現できるユニークな省になる可能性を秘めています。
 
(4)期待する投資分野・注力していく分野等
 ビンズオン省は将来的には労働集約型産業から、環境にやさしく、付加価値の高いハイテク工業分野への投資を期待しています。具体的には金融やロジスティクス、ハイテク産業などです。
 また、同省では、“ビンズオン・イノベーション・リージョン”プロジェクトとして4年前からスマートシティプロジェクトに取り組んでいます。同省は世界スマートシティフォーラム(The World Smart City Forum)に参加しており、今年の初め、同フォーラムが発表した世界のスマートシティの21市・地域のリストにベトナムでは唯一、三年連続で掲載されたと言われています。このほか同省はアジア経済協力フォーラム(Horasis)、世界貿易センター協会(WTCA)などの組織にも参加しています。特に、世界貿易センターについては、同省の“世界貿易センタービンズオン・ニューシティ(The World Trade Center Binh Duong New City)”がビンズオン・スマート・シティとして脚光を浴びる場所になると言われています。
 
3 日本とのつながり
(1)これまで日本からビンズオン省への累積投資件数は325件、総額57億3,200万米ドル(2021年3月時点)の投資が行われています。1990年代の第一次ベトナム投資ブームと言われた時代から日系企業が進出しています。主な投資分野は、インフラ整備・都市開発、電子部品、集積回路・マイクロチップ、自動車などです。伝統的な製造業に加え、今後は生活インフラの整備や前述のような新都市開発が行われることにより小売り・サービス業の進出が期待されます。

(2)前述したとおり、日本政府は、ODAを通じて、同省における公共交通を中心としたまちづくり(ビンズオン公共交通管理能力強化プロジェクト(技術協力)など)を実施している他、生活インフラに不可欠な上下水道の整備(南部ビンズオン省水環境改善事業(円借款)、ビンズオン省上水道拡張事業(海外投融資))も実施しています。

(3)日本の地方自治体との連携では山口県と緊密な交流があります。訪日経験がある省政府幹部も多く、昨年(2021年)3月と11月にビンズオン省への投資セミナーを山口県との間で実施しています。11月の意見交換では、さらに日本との人材交流を進めていきたい旨、発言がありました。また、産業分野交流以外にも「ビンズオン新都市」では日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の川崎フロンターレが地元企業と連携し、ユースの年代を対象としたサッカー交流活動を行っています。
 
※本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計を参照しております。
図2:ビンズオン新省庁舎(出典:ビンズオン省外務局)
図3:ビンズオン省の工業団地(出典:ビンズオン省外務局)