ベトナム南部ドンナイ省の魅力―空・陸・海へのアクセス改善による利便性向上が期待される、南部経済の一角―
令和4年8月26日

在ホーチミン日本国総領事館が管轄するベトナム南部(フーイエン省、ダクラク省以南)の魅力については、昨年7月にご紹介したとおり(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page22_003659.html)、特色豊かな地方省・市が存在します。日本ではあまり名前が知られておらず、なじみの薄いベトナム南部地方省・市においても日本企業に対する進出期待は高く、本稿では、皆様に南部地方省市のことを知っていただくという視点で、今回はホーチミン市からみて東部に位置するドンナイ(Dong Nai)省について経済面を中心にご紹介します。
1 ベトナム南部経済の一角を担う外資企業の進出先
(1)ドンナイ省はホーチミン市からみて東部に位置しており、2(2)で詳述するとおり、大都市への近接性・交通の利便性から90年代よりビンズオン省に並び外資企業に選ばれ続けている省です。省都のビエンホア市からホーチミン市タンソンニャット国際空港までは国道1号線を車で南西に下り1時間弱です。ホーチミン市には高速道路が整備され、1時間程というアクセスにも優れています。その為、日系企業関係者も住居はホーチミン市に構え、毎日ドンナイ省に通勤している方が多いです。
(2)ドンナイ省の人口は約317万人、南部ではホーチミン市に次ぐ第2位の人口規模です。省都であるビエンホア市は人口約83万人とベトナム全土でみても総人口30万人以上を抱える数少ない都市の一つです。ホーチミン市での不動産開発が過熱していることを背景に、同市と接するドンナイ省西部では不動産開発が活発です。直近5年間、常に流入人口が流出人口を上回っており、省内に移住する住民が増えています。
(3)新型コロナウイルスが直撃した2021年、ホーチミン市が-6.78%とドイモイ以来初のマイナス成長を記録した一方で、ドンナイ省のGRDP成長率は2.15%とプラスを維持。一人当たりGDPは約5,000ドルです。ベトナム統計総局の生活水準調査(2020年)によると、同省の1人あたり月収は全国第4位の562万ドン(約250米ドル)。収入源別でみると、給料・賃金は64%、農林水産業は7%、非農業・その他が29%といった構成です。
2 ドンナイ省の魅力
ドンナイ省の経済構造は、農林水産業が1割未満、製造・建設業が約6割、サービス業が約2割、政府部門(税-補助金)が1割未満をそれぞれ占めています。ビンズオン省と同様、ホーチミン市の隣接都市として、外資企業誘致を軸にベトナムの工業化を牽引してきた省です。
(1) 今後益々交通利便性が高まることへの強い期待
ドンナイ省には域内の連結性向上を改善し南部経済を飛躍的に活性化させるインフラ整備が同省東部ロンタイン県を中心とし計画されています。
(ア)2025年開港を目指したロンタイン国際空港建設
まず、空のアクセスについて、2021年、ロンタイン県にてロンタイン国際空港の建設が始まりました。ベトナムのみならず東南アジア地域におけるハブ空港を目指して、2040年にかけて3期にわけて建設工事が進められる予定です。第1期では滑走路、誘導路、エプロンなどが整備され、年間利用旅客数2500万人、年間120万トンあたりの貨物を処理可能とする空の玄関口として、チン首相の強力なリーダーシップの下、現在、工事が急ピッチで進められています。第1期の開業予定年は2025年です。同空港の建設により、ホーチミン市タンソンニャット国際空港で慢性化している混雑の緩和が期待されます。
(イ)ホーチミン市への交通網の利便性と今後の周辺経済地域との連結性向上に期待
(a)次に陸のインフラについて、ドンナイ省ではホーチミン市中心部と接続する形で同省を横断するホーチミンーロンタインーゾーザイ間高速道路が既に開通しています。同道路は、南北高速道路の一部であり日本政府による円借款事業ODAで2015年に整備され、現在拡張工事が検討されています。先述したロンタイン国際空港付近を通過し、同省北東部でホーチミン市とつながる国道1A号線と合流する形で走っており、同省及びベトナム南部の物流を支える基幹道路です。
(b)既に2011年に事業実施に関する政府承認が下りていたホーチミン市及び周辺省(ドンナイ省、ビンスオン、ロンアン省)を結ぶ全長64kmの環状3号線の建設が、政府の重要道路整備プロジェクトの一つとして選定され、今後建設が加速化される見込みです。この環状線の完成によりホーチミン市の交通渋滞緩和のみならず、メコンデルタ地域各省からドンナイ省の工業団地やバーリア=ブンタウ省のカイメップ・チーバイ港への貨物輸送の利便性が増すことが期待されます。
(ウ)ベトナム最大規模の大型貨物国際港へのアクセス改善に期待
最後に海へのアクセスについて、同省を縦断しバーリア=ブンタウ省へ続く形で走る国道51号線と並行する形で、ビエンホアーブンタウ高速道路の建設が予定されています。バーリア=ブンタウ省にはベトナム有数の深水港カイメップ=チーバイ港があり、同高速道路の建設は同港へのアクセス改善につながります。また、内陸に位置するドンナイ省で操業する企業にとり、輸出入先の選択肢が増えることを意味するほか、混雑・渋滞が顕在化しているホーチミン市カットライ港の負担軽減を通じて南東地域全体における物流の効率化が期待されます。
(2)海外直接投資受入額(累積)は全国第5位
ドンナイ省は、ホーチミン市、ビンズオン省、ハノイ市、バーリア=ブンタウ省に続き、第5位の海外直接投資受入先です(1,792件、32,706百万米ドル)。90年代から工業団地の整備が進められ、2021年時点で、30の工業団地が整備されています。比較的地盤が固く、早期より大規模な土地が工業向けに確保されていたことを背景に、大手製造業が数多く進出しています。昨年後半もスイスの食品大手が1億3200万米ドルの工場新設の追加投資を行った旨の報道があった他、本年7月にも同省は世界の電子機器大手の部品サプライヤーによる1億米ドルの投資ライセンスを許可した旨の報道ありました。同省はハイテク企業やグリーン技術、裾野産業分野の投資を優先する方針を示しており、今後、外資の受け入れにより選択的になることが予想されます。
(3)小売り・サービス業の発展に期待
上述したとおり、ドンナイ省は工業化がいち早く進んだこともあり、住民の所得水準が高い点が特徴です。ベトナム人中間所得層をターゲットとした日系デヴェロッパーによる不動産開発が行われているほか、日系小売企業の進出機運も高まっています。人口規模、所得水準、インフラ環境で優れているドンナイ省は、ホーチミン市の後を追う形で、今後、小売・サービス業分野での進出が増えることが予想されます。
3 日本とのつながり
(1)日系企業は製造業分野を中心に数多く進出しており、同省にとり第3位の海外投資家です(262件、5,000百万米ドル(累積))。ホーチミン日本商工会議所(JCCH)ではドンナイ部会が設置されており、部会に所属する企業数は118社とJCCHの部会で3番目に規模が大きいです。
(2)ドンナイ省の工業団地で操業する日系企業からは、上述のとおり、ホーチミン市に隣接し高速道路を利用することにより一時間圏内の至近の距離にあること(特に、日系企業が多く入居する工業団地は高速道路出入り口から近い距離に所在)、ホーチミン市の主要港で日系製造企業が多く利用するカットライ港へのアクセスも便利であるなどの声が聞かれます。また、同省では、中小企業目線で土地リース面積・価格設定を行っている日本の中小企業向けレンタル工場も設立されています。
(3)また、同省は近畿経済産業局との交流があり、2013年、同局との協力文書(同省工業団地管理局(DIZA)内に日系企業の進出支援を担う関西デスクを設置することなどに合意)を締結したことを皮切りに、2017年及び2021年に同協力文書の更新を行っています。2021年の協力文書では、(1)裾野産業育成に関する協力、(2)産業人材育成・供給に関する協力、(3)環境・省エネ分野における協力といった3つの項目について、両者で協力を進めていくことが定められました。具体的な取り組みとしては、2017年より、ドンナイ省、近畿経済産業局、JCCH、海外産業人材育成協会の共催で日本企業とベトナム企業のビジネスマッチング会を開催してきました(注:2021年は新型コロナウイルス第4波の影響を受けオンライン形式で開催)。
(4)日本政府として、前述した円借款によるホーチミン-ロンタイン-ゾーザイ間高速道路の整備のほか、ドンナイ省インフラ整備事業(2015年)、ビエンホア市下水排水処理施設計画(2017年)など上下水道の整備を通じて、同省における社会インフラ整備に貢献しています。
(5)日本の地方自治体との連携について、ドンナイ省は兵庫県、埼玉県、愛媛県と協力協定や覚書を締結しています。
※本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計などを参照しております。
1 ベトナム南部経済の一角を担う外資企業の進出先
(1)ドンナイ省はホーチミン市からみて東部に位置しており、2(2)で詳述するとおり、大都市への近接性・交通の利便性から90年代よりビンズオン省に並び外資企業に選ばれ続けている省です。省都のビエンホア市からホーチミン市タンソンニャット国際空港までは国道1号線を車で南西に下り1時間弱です。ホーチミン市には高速道路が整備され、1時間程というアクセスにも優れています。その為、日系企業関係者も住居はホーチミン市に構え、毎日ドンナイ省に通勤している方が多いです。
(2)ドンナイ省の人口は約317万人、南部ではホーチミン市に次ぐ第2位の人口規模です。省都であるビエンホア市は人口約83万人とベトナム全土でみても総人口30万人以上を抱える数少ない都市の一つです。ホーチミン市での不動産開発が過熱していることを背景に、同市と接するドンナイ省西部では不動産開発が活発です。直近5年間、常に流入人口が流出人口を上回っており、省内に移住する住民が増えています。
(3)新型コロナウイルスが直撃した2021年、ホーチミン市が-6.78%とドイモイ以来初のマイナス成長を記録した一方で、ドンナイ省のGRDP成長率は2.15%とプラスを維持。一人当たりGDPは約5,000ドルです。ベトナム統計総局の生活水準調査(2020年)によると、同省の1人あたり月収は全国第4位の562万ドン(約250米ドル)。収入源別でみると、給料・賃金は64%、農林水産業は7%、非農業・その他が29%といった構成です。
2 ドンナイ省の魅力
ドンナイ省の経済構造は、農林水産業が1割未満、製造・建設業が約6割、サービス業が約2割、政府部門(税-補助金)が1割未満をそれぞれ占めています。ビンズオン省と同様、ホーチミン市の隣接都市として、外資企業誘致を軸にベトナムの工業化を牽引してきた省です。
(1) 今後益々交通利便性が高まることへの強い期待
ドンナイ省には域内の連結性向上を改善し南部経済を飛躍的に活性化させるインフラ整備が同省東部ロンタイン県を中心とし計画されています。
(ア)2025年開港を目指したロンタイン国際空港建設
まず、空のアクセスについて、2021年、ロンタイン県にてロンタイン国際空港の建設が始まりました。ベトナムのみならず東南アジア地域におけるハブ空港を目指して、2040年にかけて3期にわけて建設工事が進められる予定です。第1期では滑走路、誘導路、エプロンなどが整備され、年間利用旅客数2500万人、年間120万トンあたりの貨物を処理可能とする空の玄関口として、チン首相の強力なリーダーシップの下、現在、工事が急ピッチで進められています。第1期の開業予定年は2025年です。同空港の建設により、ホーチミン市タンソンニャット国際空港で慢性化している混雑の緩和が期待されます。
(イ)ホーチミン市への交通網の利便性と今後の周辺経済地域との連結性向上に期待
(a)次に陸のインフラについて、ドンナイ省ではホーチミン市中心部と接続する形で同省を横断するホーチミンーロンタインーゾーザイ間高速道路が既に開通しています。同道路は、南北高速道路の一部であり日本政府による円借款事業ODAで2015年に整備され、現在拡張工事が検討されています。先述したロンタイン国際空港付近を通過し、同省北東部でホーチミン市とつながる国道1A号線と合流する形で走っており、同省及びベトナム南部の物流を支える基幹道路です。
(b)既に2011年に事業実施に関する政府承認が下りていたホーチミン市及び周辺省(ドンナイ省、ビンスオン、ロンアン省)を結ぶ全長64kmの環状3号線の建設が、政府の重要道路整備プロジェクトの一つとして選定され、今後建設が加速化される見込みです。この環状線の完成によりホーチミン市の交通渋滞緩和のみならず、メコンデルタ地域各省からドンナイ省の工業団地やバーリア=ブンタウ省のカイメップ・チーバイ港への貨物輸送の利便性が増すことが期待されます。
(ウ)ベトナム最大規模の大型貨物国際港へのアクセス改善に期待
最後に海へのアクセスについて、同省を縦断しバーリア=ブンタウ省へ続く形で走る国道51号線と並行する形で、ビエンホアーブンタウ高速道路の建設が予定されています。バーリア=ブンタウ省にはベトナム有数の深水港カイメップ=チーバイ港があり、同高速道路の建設は同港へのアクセス改善につながります。また、内陸に位置するドンナイ省で操業する企業にとり、輸出入先の選択肢が増えることを意味するほか、混雑・渋滞が顕在化しているホーチミン市カットライ港の負担軽減を通じて南東地域全体における物流の効率化が期待されます。
(2)海外直接投資受入額(累積)は全国第5位
ドンナイ省は、ホーチミン市、ビンズオン省、ハノイ市、バーリア=ブンタウ省に続き、第5位の海外直接投資受入先です(1,792件、32,706百万米ドル)。90年代から工業団地の整備が進められ、2021年時点で、30の工業団地が整備されています。比較的地盤が固く、早期より大規模な土地が工業向けに確保されていたことを背景に、大手製造業が数多く進出しています。昨年後半もスイスの食品大手が1億3200万米ドルの工場新設の追加投資を行った旨の報道があった他、本年7月にも同省は世界の電子機器大手の部品サプライヤーによる1億米ドルの投資ライセンスを許可した旨の報道ありました。同省はハイテク企業やグリーン技術、裾野産業分野の投資を優先する方針を示しており、今後、外資の受け入れにより選択的になることが予想されます。
(3)小売り・サービス業の発展に期待
上述したとおり、ドンナイ省は工業化がいち早く進んだこともあり、住民の所得水準が高い点が特徴です。ベトナム人中間所得層をターゲットとした日系デヴェロッパーによる不動産開発が行われているほか、日系小売企業の進出機運も高まっています。人口規模、所得水準、インフラ環境で優れているドンナイ省は、ホーチミン市の後を追う形で、今後、小売・サービス業分野での進出が増えることが予想されます。
3 日本とのつながり
(1)日系企業は製造業分野を中心に数多く進出しており、同省にとり第3位の海外投資家です(262件、5,000百万米ドル(累積))。ホーチミン日本商工会議所(JCCH)ではドンナイ部会が設置されており、部会に所属する企業数は118社とJCCHの部会で3番目に規模が大きいです。
(2)ドンナイ省の工業団地で操業する日系企業からは、上述のとおり、ホーチミン市に隣接し高速道路を利用することにより一時間圏内の至近の距離にあること(特に、日系企業が多く入居する工業団地は高速道路出入り口から近い距離に所在)、ホーチミン市の主要港で日系製造企業が多く利用するカットライ港へのアクセスも便利であるなどの声が聞かれます。また、同省では、中小企業目線で土地リース面積・価格設定を行っている日本の中小企業向けレンタル工場も設立されています。
(3)また、同省は近畿経済産業局との交流があり、2013年、同局との協力文書(同省工業団地管理局(DIZA)内に日系企業の進出支援を担う関西デスクを設置することなどに合意)を締結したことを皮切りに、2017年及び2021年に同協力文書の更新を行っています。2021年の協力文書では、(1)裾野産業育成に関する協力、(2)産業人材育成・供給に関する協力、(3)環境・省エネ分野における協力といった3つの項目について、両者で協力を進めていくことが定められました。具体的な取り組みとしては、2017年より、ドンナイ省、近畿経済産業局、JCCH、海外産業人材育成協会の共催で日本企業とベトナム企業のビジネスマッチング会を開催してきました(注:2021年は新型コロナウイルス第4波の影響を受けオンライン形式で開催)。
(4)日本政府として、前述した円借款によるホーチミン-ロンタイン-ゾーザイ間高速道路の整備のほか、ドンナイ省インフラ整備事業(2015年)、ビエンホア市下水排水処理施設計画(2017年)など上下水道の整備を通じて、同省における社会インフラ整備に貢献しています。
(5)日本の地方自治体との連携について、ドンナイ省は兵庫県、埼玉県、愛媛県と協力協定や覚書を締結しています。
※本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計などを参照しております。


