バーリア=ブンタウ省の魅力―南東地域の工業を支える縁の下の力持ち、エネルギー・重化学産業が集積―

令和4年10月18日
図1:バーリア=ブンタウ省(出典:ベトナム政府HP)
 ベトナム南部(フーイエン省、ダクラク省以南)の魅力については、昨年7月にご紹介したとおり(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page22_003659.html)、特色豊かな地方省・市が存在します。日本ではあまり名前が知られておらず、なじみの薄いベトナム南部地方省・市においても日本企業に対する進出期待は高く、本稿では、皆様に南部地方省市のことを知っていただくという視点で、ホーチミン市からみて南東に位置するバーリア=ブンタウ(Ba Ria Vung Tau)省について経済面を中心にご紹介します。
 
1 ベトナムを代表する深水港を有する海の玄関、一人あたりGRDP全国第1位
(1)バーリア=ブンタウ省は南東地域の海の玄関口です。また、2(1)で詳述するとおり、90年代よりビンズオン省やドンナイ省と同様に外資企業に選ばれ続けている省です。省都のバーリア市からホーチミン市タンソンニャット国際空港及びカットライ港までは国道51号線経由でおおよそ2時間前後とホーチミン市へのアクセスにも優れています。
(2)同省の人口は約118万人、この地域では比較的人口が少ない省です。新型コロナウイルスが猛威を振るった2021年、ホーチミン市が-6.78%とドイモイ以来初のマイナス成長を記録した一方で、同省のGRDP成長率は1.02%とプラスを維持。一人あたりGRDP(石油・ガスを除く)は7,140米ドルで全国1位です。石油・ガスを含めた場合、同省の一人あたりGRDPは約2倍の14,294.2米ドルであり、いかに同省が石油・ガスといった天然資源に恵まれているかが反映されています。ベトナム統計総局の生活水準調査(2021年)によると、同省の1人あたり月収は全国第4位の442万ドン。収入源別でみると、給料・賃金は62%、農林水産業は7%、非農業・その他が31%といった構成です。
(3)バーリア=ブンタウ省の経済構造は、第一次産業が6.48%、第二次産業(石油・ガス含む)が70.87%、第三次産業が14.62%、その他が8.46%をそれぞれ占めています。ビンズオン省やドンナイ省と同様、第二次産業が占める割合が高い点が特徴で累積海外投資額は全国第5位、1件あたりの金額では全国第1位と大規模な投資が多く、同省が石油・ガス(含むLNGガス)といったエネルギーや鉄鋼・化学など素材・原材料分野の外資企業集積地として発展してきたことが分かります。
(4)同省の強みは、(1)良港があること、(2)天然ガスに恵まれていること、(3)水に恵まれていること(山から水を引いてくることができる)、(4)発電所が近くにありこれを活用できるといった点。こういった背景から同省には素材・原材料生産といった製造工程の上流分野をになう重化学関連の企業の集積が多いことから、ベトナム南部の工業化を縁の下で支えてきた省といえます。ホーチミン市及びその周辺のビンズオン省、ドンナイ省の産業構造(製造業分野等)の違いから、これら省市との関係でバリューチェーンの棲み分けができているといえます。
(5)同省は今後もこの特長を踏まえたうえで、環境配慮と経済成長を両立する形で、カイメップ・チーバイ港を含む港湾ロジスティクス、省エネ・環境負荷の少ない高付加価値ハイテク産業、海産物資源やMICE誘致に特化した観光、ハイテク農業を4本柱として開発を進めていく方針です。
 
2 バーリア=ブンタウ省の魅力
(1)深水港、天然ガス、安定した電力豊富な水資源へのアクセスの良さ
 バーリア=ブンタウ省には同省南部に、水深14m・16万TEUの巨大コンテナ船が寄港可能なベトナムを代表する深水港であるカイメップ・チーバイ国際港があります。ベトナム港湾協会によれば、同港のコンテナ取扱量はベトナム全体の25.9%を占めており、ホーチミン市カットライ港と同様、ベトナムの貿易を支える基幹インフラです。昨年9月にファム・ミン・チン首相が承認した「港湾発展基本計画(2021年-2030年)」においても、カイメップ・チーバイ港は優先的に周辺インフラを整備する案件の一つとして指定されています。なお、同港の一部コンテナ貨物ターミナルは2005年~2015年にかけて、日本政府による円借款で建設されています
 同省の石油・天然ガスの埋蔵量がベトナムで最大で、石油はベトナム国内の約9割、天然ガスは国内の約2割を占めています。越企業と協働で同省沖合にて石油開発を手がけている日系企業や産業向け天然ガスの供給事業展開している日系企業も所在しています。また、安定した電力供給も同省の特長です。日本政府が円借款を通じて一部設備の建設を支援したフーミー火力発電所1~4は右肩上がりで伸びるベトナムの電力需要に貢献しています。 
 さらに、パルプ・紙・製造業、化学工業、鉄鋼業などの製造工程で必要不可欠な工業向けの水源が豊富です。
 
(2)海外直接投資受入額(累積)は全国第5位
 上述した良好な投資環境を背景に、バーリア=ブンタウ省は、2022年7月末時点で、ホーチミン市、ビンズオン省、ハノイ市、ドンナイ省に続き5番目に直接海外投資の受け入れが多い省です(527件、33,166百万米ドル)。計11の工業団地が整備されています。分野別にみると、港湾などのロジスティクスや同省の特徴(天然ガスへのアクセス、安定した豊富な水資源など)を背景にエネルギー・鉄鋼・パルプ・石油化学分野などへの投資が多いです。近年では、タイや韓国系大手石油化学企業による大規模投資が行われており、輸入依存度の高かったポリエチレンやポリプロピレンなどが生産されることにより、現地調達率の改善が期待されます。

(3)今後の交通インフラ整備の進捗で益々利便性が増す
 来年の建設開始が予定されているホーチミン市環状3号線はホーチミン市及び周辺省(ロンアン省、ビンズオン省、ドンナイ省)を結び、同環状線の完成により、これら省市から、またメコンデルタ地域からバーリア=ブンタウ省のカイメップ・チーバイ港への貨物輸送の利便性が増すことが期待されます。更に、今後、同環状線の外側にホーチミン市、ロンアン省、ビンズオン省、ドンナイ省、バーリア=ブンタウ省の主要産業地域を結ぶ環状4号線の建設も予定されています。
 また、ドンナイ省の省都ビエンホアとバーリア=ブンタウ省の旧省都ブンタウ市を結びビエンホア=ブンタウ高速道路の建設も予定されています。同高速道路は既存の国道51号線の渋滞緩和を狙って、同国道と並行する形で建設されるものです。この沿線には日系企業が多数入居している工業団地が所在する他、2025年開港を目指してロンタイン国際空港の建設が進められています。また、カイメップ・チーバイ港へのアクセスへの改善のほか、バーリア=ブンタウ省への観光客誘致(以下2(4))を後押しすることが期待されます。

(4)ホーチミン市からのアクセスに優れた風光明媚なビーチや離島
 意外と知られていないかもしれませんが、バーリア=ブンタウ省は観光資源も豊富です。年間沢山の観光客が訪問しています。国内有数のビーチ(バックビーチ、ホ・チャムビーチなど)を有し、ベトナム人及び外国人に人気の観光スポットとなっています。ホーチミン市に在住する日本人の間でも、バーリア=ブンタウ省のビーチは同市からの距離も手頃で、日帰りの観光訪問先として人気です。このほか、同省には大手高級ホテルチェーンが進出しているコンダオ島があり、ホーチミン市タンソンニャット空港から飛行機で1時間弱です。コロナ前の2019年に同省を訪れた外国人観光客は50万人です(参考:同年、ベトナム全体で約1800万人、ホーチミン市には860万人の外国人観光客が訪問)。
 
3 日本とのつながり
(1)日系企業は発電・鉄鋼・紙パルプ分野などを中心に38社が進出しています。日越共同声明に基づいて設置された工業団地や日系物流倉庫も整備されています。ホーチミン日本商工会議所(JCCH)ではバーリア=ブンタウ部会が設置されており、部会に所属する企業数は15社です。ホーチミン市同様、同省人民委員会とのラウンドテーブルが毎年開催されています。また、JICAの支援により、2014年に同省計画投資局の下にジャパンデスクが設置されておりました。現在も、日本人シニアアドバイザーが在籍しています。
 新型コロナウイルス第4波が猛威を振るった昨年、同省は他省に先駆けいち早く外国投資家との対話集会を9月にオンライン形式で開催しています。日系企業を対象としたセッション「コロナ禍における生産継続・投資環境に関する意見交換会」では、日系企業から寄せられた要望一つ一つに同省人民委員長が丁寧に回答し説明がなされました。このような対話集会を中央政府がウィズコロナに舵をきる前に開催していることは、同省が日本をはじめとする外国投資家を大事にしていることの表れです。
(2)日本政府として、円借款によるフーミー火力発電所建設事業(1994年~2005年)やカイメップ・チーバイ国際港開発事業(2003年~2015年)を実施し同省の経済発展に貢献してきたほか、当館として草の根・無償資金協力事業を通じて、教育・保健分野でこれまで166,487米ドル相当の支援を実施しています。
(3)日本の自治体との関係では、同省は経済協力の分野で、神奈川県川崎市及び大阪府泉大津市とそれぞれ提携しています。
 
※本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計などを参照しております。最新の統計は各機関が公開している情報をご参照ください。
図2:カイメップ・チーバイ深水港(出典:当館)
図3:ビーチ(出典:同省観光局)