ビンフォック省の魅力―カシューナッツ王国・ ホーチミン市及び周辺省の産業集積に隣接するところとして 製造業の今後の進出に期待―

令和4年10月28日
図1:ビンフォック省(出典:ベトナム政府HP)
 ベトナム南部(フーイエン省、ダクラク省以南)の魅力については、昨年7月にご紹介したとおり(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page22_003659.html)、特色豊かな地方省・市が存在します。日本ではあまり名前が知られておらず、なじみの薄いベトナム南部地方省・市においても日本企業に対する進出期待は高く、本稿では、皆様に南部地方省市のことを知っていただくという視点で、ビンフォック(Binh Phuoc)省について経済面を中心にご紹介します。
 
1 カシューナッツなど農産物の一大生産地
(1)ビンフォック省はホーチミン市から国道13号線で北上し、ビンズオン省を超えて車で約3時間弱の場所に位置しています。ビンフォック省の人口は南東地域で最も少ない約101万人。一方で面積は同地域最大の6,877kmです。ビンズオン省と接する同省チョンタイン県を起点に国道13号線と国道14号線が走っており、前者はカンボジア方面へ、後者は省都であるドンソアイ(Dong Xoai)を通過しダクノン省へ接続しています。
(2)同省は日照時間が長くまた平地であるため、農業に適しています(2(1)詳述)。カシューナッツ、天然ゴム、胡椒、コーヒー豆は国内有数の生産量を誇ります。一人当たりGRDPは約3,200ドル、平均月収は4,002千VND(全国27位)、うち農林水産部門由来の収入は3割強を占めます。
(3)新型コロナウイルスが猛威をふるった昨年、経済成長率が大幅に落ち込む省市が多い中、ビンフォック省の経済成長率は前年比6.32%と近隣省市より高い数値を記録しています(※ベトナム全体2.58%、ホーチミン市-6.78%、ビンズオン省2.79%、ドンナイ省2.15%、バーリア=ブンタウ省1.02%、タイニン省0.21%)。
 
2 ビンフォック省の魅力
 ビンフォック省の経済構造は、農林水産業、製造・建設業、サービス業・その他がそれぞれ約3割を占めています。特に近年は工業部門の成長率が高く、同省が同部門の育成に注力していることが反映されています。カンボジアとの国境に接し、またホーチミン市やビンズオン省といった経済ハブに近いという地理的優位性を活かし、今後、工業団地の整備を進め、ハイテク農業や製造業の誘致に力を入れていく方針です。
 
(1)農業生産に適した環境、カシューナッツの一大生産地
 
先述したように、ビンフォック省はカシューナッツ(全国1位)、天然ゴム(全国1位)、胡椒(全国4位)、コーヒー豆、キャッサバ、サトウキビなど農業資源が豊富です。2021年の農林水産部門の成長率は3.8%、今後ハイテク技術の活用に注力し、2020年から25年にかけて平均5.7%の成長率を目標として掲げています。
 カシューナッツについて、赤土が多いビンフォック省は最適な生産地の一つとして1990年代より、国が種子や肥料を配るなど同省での生産を後押ししてきました。国連食糧農業機関(FAO)によれば、2020年のベトナム全体のカシューナッツ生産高(殻付き)の世界シェアは8%ほどで、コートジボワール、インドに続き世界第3位です。ビンフォック省はベトナム国内のカシューナッツ生産高の5割を占め、国内第1位の生産高を誇ります。
(2)ビンズオン省とともに外資企業誘致のポテンシャルあり
 
実はビンフォック省とビンズオン省は、元々ソンべー省(Song Be)という一つの省で、1996年、現在の2つの省に分割されました。分割後、両省はそれぞれの強みを生かして経済発展に取り組んできました。
 外資企業の誘致に関しては、ビンフォック省のFDI案件数(累積)は379件(3,732.4百万USD)、整備済み工業団地数は9件とビンズオン省の4,022件(37,791.6百万USD)及び26件と大きく差がありますがこれは見方を変えれば、外資企業誘致という観点でビンフォック省の開発はまだまだこれからともいえます。ビンズオン省と比較すると、ビンフォック省の労働力は安価であり(賃金水準についてビンフォック省は地域2(月額4,160千VND)、ビンズオン省は地域1(月額4,680千VND)に分類)、土地リース料も安く、大規模な工業団地を開発できる余地があります。また、ビンズオン省は、すでにIT・ハイテク技術を活用した非労働集約型かつ環境負荷の少ない投資を優先する方針を示しており、今後、外資企業の誘致により選択的になることを考慮すると、ビンフォック省は外資企業の新たな受け皿となりうるポテンシャルを秘めています。実際に、2020年12月には東南アジア最大の鶏肉工場を同省に設置しており、ベトナム国内及び日本への輸出が行われています。本年2月、渡邊総領事はビンフォック省を訪問し、省の共産党や人民委員会幹部と懇談した際も、先方より同省の発展に向けた潜在性に関する説明とともに、日系企業による投資、日本の地方自治体との連携に対し力強いアピールがなされました。
 また、今後整備が予定されているホーチミン市へのアクセスを改善する高速道路などのインフラ整備が進めば、外資企業の呼び込みに更に弾みがつくものと思われます。日本人にはなじみが少ないということから、同省に新規進出するハードルはあり得るかもしれませんが、既に当地に進出している企業にとり既往工場・第二工場移転先の有力候補になるかもしれません。ビンズオン省では日系企業が外国人駐在員向けの不動産開発も進められています。既に日系企業の中には駐在員等を、ホーチミン市から通勤させるスタイルからビンズオン省の工場近くに住まわせるスタイルに変えているところもあります。ビンズオン省の省都(トゥーザモット)からビンフォック省の省都ドンソアイまで、車で1時間半強、ビンズオン省に一番近いビンフォック省の工業団地までは1時間です。こういったことを踏まえますと、将来、ビンズオン省を起点にビンフォック省に通勤するモデルが駐在パターンの一つとして考えられるのかもしれません。
(3)太陽光・バイオマス発電に関する取り組み
 
ビンフォック省は面積が大きく、年間日照時間は国内トップクラスの2,400~2,600時間であることから太陽光発電関連の取り組みも行われています。2020年にはタイ企業による大型投資がカンボジア国境と接する同省ロクニン県で行われました。また、面積も大きいところからバイオマス発電に適した環境を有しています。
 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のスコープ1~3では自社及びその企業が構築するサプライチェーン全体のCO2排出量を管理することが求められています。昨年のCOP26でチン首相が2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明したようにベトナムは国を挙げて気候変動対策に取り組んでおり、ベトナムで事業を継続する上で、グリーンな生産網構築の重要性は高まることが予想されます。その文脈で、ベトナム南部への進出を検討している企業にとり、太陽光・バイオマス由来のクリーンエネルギーの調達可能性があるビンフォック省の魅力はより高まるかもしれません。
 
3 日本とのつながり
(1)日系企業の進出は他国との合弁会社も含め7社、累積投資額は2,278万米ドルとの他の省と比べまだ少ない状況です。同省が有する豊富な農業資源に着目し、胡椒栽培をてがける日系企業もあります。貿易面では、ビンフォック省は日本向けにカシューナッツ、ゴム、履物・織物などを輸出し、日本からは履物・織物・プラスチックなどの原材料を輸入しています。
(2)日本政府として、円借款を活用し2004年に「タクモ水力発電所増設事業」を実施しており、75MWの水力発電所を増設しました。また、当館が実施している草の根・無償資金協力では、これまで医療・教育分野を中心に計7件、総額590,534米ドル相当の支援を実施しており、同省の社会インフラ整備に貢献しています。
(3)また、上述のとおりビンフォック省は日本の自治体との連携を希望しており、2018年には同省教職短期大学が奈良県吉野町と「木工製造技術教育に関する覚書」を締結しています。また、最近も、同省の幹部が日本ビジネス関係者、地方自治体への売り込みの為訪日しています。将来、日本の地方自治体との連携を通じ、日系企業の同省への進出、同省と日本との人材分野での交流などを期待したいと思います。
 
※本文中の統計は、執筆時点のベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)などが公開している統計を参照しております。最新の統計については関係機関が公開している報告書やデータベースをご参照下さい。
図2:カシューナッツ(出典:ビンフォック省政府HP)
図3:タクモ水力発電所(出典:JICAHP)