ベトナム南部ベンチェー省の魅力―ココナッツの聖地、日本との関係にも熱心、今後のインフラ整備に期待―
令和4年11月15日

在ホーチミン日本国総領事館が管轄するベトナム南部(フーイエン省、ダクラク省以南)の魅力については、昨年7月にご紹介したとおり(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page22_003659.html)、特色豊かな地方省市が存在します。日本ではあまり名前が知られておらず、なじみの薄いベトナム南部地方省・市においても日本企業に対する進出期待は高く、本稿では、皆様に南部地方省市のことを知っていただくという視点で、メコンデルタ地域のベンチェー(Ben Tre)省について経済面を中心にご紹介します。
1 都会から2時間弱でアクセスできるココナッツの産地
(1)ベンチェー省はホーチミン市から国道1A号線で南下し85km、車で1時間半~2時間弱の場所に位置しており、南シナ海に面しているメコンデルタ地域の省です。2(1)にて後述しますが、同省の代名詞ともいえるココナッツは国内最大の生産高を誇り、同省は「ココナッツの聖地」と呼ばれています。また、カカオや柑橘系の果樹の生産、エビの養殖も盛んです。
(2)同省の人口は約130万人。メコン川の支流にあたる4つの河川(ミトー川、バーライ川、コーチエン川、ハムルオン川)が同省西部から東部に流れ、南シナ海に注いでおり、メコン川の最下流にあたります。新型コロナウイルスが猛威を振るった2021年、ホーチミン市やカントー市がマイナス成長を記録するなか、同省のGRDP成長率は0.53%とプラスを維持。一人あたりGRDPは1,840米ドルです。ベトナム統計総局の生活水準調査によると、同省の1人あたり月収はメコンデルタ13省市中第9位の337万ドンです。収入源別でみると、給料・賃金は43.8%、農林水産業は22.4%、非農業・その他が33.8%といった構成です。
(3)ベンチェー省の経済構造は、農林水産業が37.9%、製造・建設業が18.2%、サービス業が40.3%をそれぞれ占めています(参考:ベトナム全体では、農林水産業が12.6%、製造・建設業が37.5%、サービス業が50.0%)。メコンデルタ地域の特徴でもある第一次産業の比率が高いです。
2 ベンチェー省の魅力
(1)今後の発展に向けた重点分野
同省の外国投資は2021年末時点で64件、計1,583.9ドルですが、同省としては、今後の発展に向け、農業開発に注力していくこと、そして農業加工分野、裾野産業分野、風力・太陽光などの再生可能エネルギー分野などにも力を入れていくとされています。これに加え、同省の観光資源を生かした観光分野の振興にも力を入れていく計画です(以下2(4)参照)。
(2)ココナッツ、カカオ、エビなど豊富な農水産資源
ベンチェー省は海抜が低く、平地であり、またメコン川の支流が張り巡らされており、肥沃な土壌を有していることから農水産物の生産に適しています。ココナッツは国内生産高第1位、同省産のカカオは品質が高く輸出向けチョコレートの原料として使用されています。ザボン、ランブータン、ドリアン、マンゴスチンなどといった柑橘系果樹の生産量も多いです。また、淡水と海水が混在している汽水を活用した水産物の養殖(エビなど)も盛んです。
同省の代名詞ともいえるココナッツは、温暖な気候の下、地中のミネラルを養分として成長するため、ベトナム、とくに南部のメコンデルタ地域は最適な生産地の一つです。国連食糧農業機関(FAO)によれば、ベトナムの年間生産高は世界第6位の172万トン、ベトナム国内ではベンチェー省が生産高約5割を占める全国第1位の生産量を誇ります。同省が「ココナッツの聖地」と呼ばれる理由です。同省で生産されるココナッツ及びその加工品(ココナッツミルク、オイル、チップ、クッキーなど)は日本を含む諸外国にも輸出されており、同省の輸出額の3割を稼ぐ基幹産業です。本年6月に開催されたグエン・ディン・チュウ(同省出身の文化人でベトナムを代表する詩人として有名)生誕200周年を記念するイベントでは、60名以上のシェフが計222品のココナッツ料理を振る舞い、ココナッツ料理に関する世界最大の祭典として、世界記録(Worldkings Org)に認定されました。
他のメコンデルタ地域省市同様、ベンチェー省は海岸浸食、塩害、干ばつなど気候変動の影響を大きく受けている地域の一つです。ココナッツも、近年、その実が昔ほど大きく実らないなど、危機気候変動の影響が顕在化しています。気候変動による負のインパクトを軽減する措置が実施されると共に、環境負荷の少ない持続可能な農水産物の生産及び加工技術の改善が期待されます。当館としても、NGO連携無償資金協力事業にて、特定非営利活動法人Seed to Tableによる「持続的農業の実践による貧困世帯の生計改善事業」を支援しています(以下3(3)参照)。
(3)インフラ整備を通じた投資環境改善に期待
ベンチェー省にはメコン川支流にあたる河川が複数流れていることから、近隣省及び省内の移動をするためには架橋の建設が不可欠です。2009年には同省とティエンザン省を結ぶラックミエウ橋、本年にはラックミエウ第2橋が着工しました。今後、ホーチミン市へとつながる同省東海岸沿いの道路の建設も計画されており、同省政府関係者はこの道路が完成すればホーチミン市7区に1時間以内でアクセスできると述べています。インフラ環境の更なる改善が期待されます。
(4)エコツーリズム
冒頭述べましたように、ベンチェー省にはメコンデルタの支流にあたる4河川とさらにそれらの支流が張り巡らされており、ベトナム南部を代表する観光資源でもあるメコン川をボートで楽しむことができます。ホーチミン市発のボートツアーもあります。同省としても、河川沿いの村落を訪問し、歴史・食文化を楽しむエコツーリズムの開発に注力していく予定です。
3 日本とのつながり
(1)日系企業は製造業分野を中心に現在4社が進出しており、総投資額は7,900万米ドルです。これはベンチェー省に対するFDIの約5%に相当します。昨年1月には、ベンチェー省党委書記(現ホーチミン市人民委員長)ら同省政府幹部がホーチミン市にて、日系企業を対象とした投資促進セミナーを開催し、日系企業による投資を呼びかけました。地方省がホーチミン市に出向き、日系企業限定の投資セミナーを開催することは珍しく、同省の日系企業誘致に対する関心の高さがうかがえます。
(2)既に進出済の日系企業からは、ベンチェー省での事業は地元当局が協力的で事業を進めやすいとのコメントも聞かれます。また、同省関係者の説明では、同省人民委員会には日本を担当するチームが設置されており、貿易・投資促進、技能実習生、文化交流、日本語学習等を担当しており、また、今後、日本文化センターの建設も予定しているとの由。同省には2016年に越日友好協会も設立されています。また、日本語教育の分野では、2021年に同省幹部向けの日本語コースが開設された他、ベトナムの人材育成・派遣会社と覚書を締結し、継続的な日本語人材の育成に務めています。
(3)日本政府では、円借款によるベンチェー省水管理事業(2017年)を実施したほか、ベンチェー省人民委員会はJICAとJETROホーチミン事務所と協力覚書を締結しており、【1】気候変動に強い農業生産・加工・流通体制の構築、【2】投資環境整備と日本企業による質の高い投資の誘致、【3】農業振興と投資促進を支える人材の育成といった3つの領域で協力していくことで合意しています。当館としても、草の根・無償資金協力事業を通じて、教育・保健・インフラ分野でこれまで計5件、総額415,368米ドル相当、NGO連携無償資金協力事業では計8件、総額120,850米ドル相当の支援をそれぞれ実施しています。
(4)日本の自治体との関係では、愛知県との間で古くから交流があり、2010年代前半より愛知県関連団体のベンチェー省訪問やベンチェー省経済ミッションの愛知県訪問などが行われてきている。また、本年8月には同省を訪問した愛媛県との間で経済交流に係るMOUを締結しています。ベンチェー省と愛媛県は、人口規模が同じであり、ともに第一次産業が盛んであるという共通点を有しています。「ココナッツ」、「カカオ」、「水産物」といった3分野で双方の間で今後協力していく計画で、この3分野ですでに企業間のマッチングが行われており、今後のベンチェー省と同県の経済交流関係の発展が期待されます。
※本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計などを参照しております。最新の統計は各機関が公開している情報をご参照ください。
1 都会から2時間弱でアクセスできるココナッツの産地
(1)ベンチェー省はホーチミン市から国道1A号線で南下し85km、車で1時間半~2時間弱の場所に位置しており、南シナ海に面しているメコンデルタ地域の省です。2(1)にて後述しますが、同省の代名詞ともいえるココナッツは国内最大の生産高を誇り、同省は「ココナッツの聖地」と呼ばれています。また、カカオや柑橘系の果樹の生産、エビの養殖も盛んです。
(2)同省の人口は約130万人。メコン川の支流にあたる4つの河川(ミトー川、バーライ川、コーチエン川、ハムルオン川)が同省西部から東部に流れ、南シナ海に注いでおり、メコン川の最下流にあたります。新型コロナウイルスが猛威を振るった2021年、ホーチミン市やカントー市がマイナス成長を記録するなか、同省のGRDP成長率は0.53%とプラスを維持。一人あたりGRDPは1,840米ドルです。ベトナム統計総局の生活水準調査によると、同省の1人あたり月収はメコンデルタ13省市中第9位の337万ドンです。収入源別でみると、給料・賃金は43.8%、農林水産業は22.4%、非農業・その他が33.8%といった構成です。
(3)ベンチェー省の経済構造は、農林水産業が37.9%、製造・建設業が18.2%、サービス業が40.3%をそれぞれ占めています(参考:ベトナム全体では、農林水産業が12.6%、製造・建設業が37.5%、サービス業が50.0%)。メコンデルタ地域の特徴でもある第一次産業の比率が高いです。
2 ベンチェー省の魅力
(1)今後の発展に向けた重点分野
同省の外国投資は2021年末時点で64件、計1,583.9ドルですが、同省としては、今後の発展に向け、農業開発に注力していくこと、そして農業加工分野、裾野産業分野、風力・太陽光などの再生可能エネルギー分野などにも力を入れていくとされています。これに加え、同省の観光資源を生かした観光分野の振興にも力を入れていく計画です(以下2(4)参照)。
(2)ココナッツ、カカオ、エビなど豊富な農水産資源
ベンチェー省は海抜が低く、平地であり、またメコン川の支流が張り巡らされており、肥沃な土壌を有していることから農水産物の生産に適しています。ココナッツは国内生産高第1位、同省産のカカオは品質が高く輸出向けチョコレートの原料として使用されています。ザボン、ランブータン、ドリアン、マンゴスチンなどといった柑橘系果樹の生産量も多いです。また、淡水と海水が混在している汽水を活用した水産物の養殖(エビなど)も盛んです。
同省の代名詞ともいえるココナッツは、温暖な気候の下、地中のミネラルを養分として成長するため、ベトナム、とくに南部のメコンデルタ地域は最適な生産地の一つです。国連食糧農業機関(FAO)によれば、ベトナムの年間生産高は世界第6位の172万トン、ベトナム国内ではベンチェー省が生産高約5割を占める全国第1位の生産量を誇ります。同省が「ココナッツの聖地」と呼ばれる理由です。同省で生産されるココナッツ及びその加工品(ココナッツミルク、オイル、チップ、クッキーなど)は日本を含む諸外国にも輸出されており、同省の輸出額の3割を稼ぐ基幹産業です。本年6月に開催されたグエン・ディン・チュウ(同省出身の文化人でベトナムを代表する詩人として有名)生誕200周年を記念するイベントでは、60名以上のシェフが計222品のココナッツ料理を振る舞い、ココナッツ料理に関する世界最大の祭典として、世界記録(Worldkings Org)に認定されました。
他のメコンデルタ地域省市同様、ベンチェー省は海岸浸食、塩害、干ばつなど気候変動の影響を大きく受けている地域の一つです。ココナッツも、近年、その実が昔ほど大きく実らないなど、危機気候変動の影響が顕在化しています。気候変動による負のインパクトを軽減する措置が実施されると共に、環境負荷の少ない持続可能な農水産物の生産及び加工技術の改善が期待されます。当館としても、NGO連携無償資金協力事業にて、特定非営利活動法人Seed to Tableによる「持続的農業の実践による貧困世帯の生計改善事業」を支援しています(以下3(3)参照)。
(3)インフラ整備を通じた投資環境改善に期待
ベンチェー省にはメコン川支流にあたる河川が複数流れていることから、近隣省及び省内の移動をするためには架橋の建設が不可欠です。2009年には同省とティエンザン省を結ぶラックミエウ橋、本年にはラックミエウ第2橋が着工しました。今後、ホーチミン市へとつながる同省東海岸沿いの道路の建設も計画されており、同省政府関係者はこの道路が完成すればホーチミン市7区に1時間以内でアクセスできると述べています。インフラ環境の更なる改善が期待されます。
(4)エコツーリズム
冒頭述べましたように、ベンチェー省にはメコンデルタの支流にあたる4河川とさらにそれらの支流が張り巡らされており、ベトナム南部を代表する観光資源でもあるメコン川をボートで楽しむことができます。ホーチミン市発のボートツアーもあります。同省としても、河川沿いの村落を訪問し、歴史・食文化を楽しむエコツーリズムの開発に注力していく予定です。
3 日本とのつながり
(1)日系企業は製造業分野を中心に現在4社が進出しており、総投資額は7,900万米ドルです。これはベンチェー省に対するFDIの約5%に相当します。昨年1月には、ベンチェー省党委書記(現ホーチミン市人民委員長)ら同省政府幹部がホーチミン市にて、日系企業を対象とした投資促進セミナーを開催し、日系企業による投資を呼びかけました。地方省がホーチミン市に出向き、日系企業限定の投資セミナーを開催することは珍しく、同省の日系企業誘致に対する関心の高さがうかがえます。
(2)既に進出済の日系企業からは、ベンチェー省での事業は地元当局が協力的で事業を進めやすいとのコメントも聞かれます。また、同省関係者の説明では、同省人民委員会には日本を担当するチームが設置されており、貿易・投資促進、技能実習生、文化交流、日本語学習等を担当しており、また、今後、日本文化センターの建設も予定しているとの由。同省には2016年に越日友好協会も設立されています。また、日本語教育の分野では、2021年に同省幹部向けの日本語コースが開設された他、ベトナムの人材育成・派遣会社と覚書を締結し、継続的な日本語人材の育成に務めています。
(3)日本政府では、円借款によるベンチェー省水管理事業(2017年)を実施したほか、ベンチェー省人民委員会はJICAとJETROホーチミン事務所と協力覚書を締結しており、【1】気候変動に強い農業生産・加工・流通体制の構築、【2】投資環境整備と日本企業による質の高い投資の誘致、【3】農業振興と投資促進を支える人材の育成といった3つの領域で協力していくことで合意しています。当館としても、草の根・無償資金協力事業を通じて、教育・保健・インフラ分野でこれまで計5件、総額415,368米ドル相当、NGO連携無償資金協力事業では計8件、総額120,850米ドル相当の支援をそれぞれ実施しています。
(4)日本の自治体との関係では、愛知県との間で古くから交流があり、2010年代前半より愛知県関連団体のベンチェー省訪問やベンチェー省経済ミッションの愛知県訪問などが行われてきている。また、本年8月には同省を訪問した愛媛県との間で経済交流に係るMOUを締結しています。ベンチェー省と愛媛県は、人口規模が同じであり、ともに第一次産業が盛んであるという共通点を有しています。「ココナッツ」、「カカオ」、「水産物」といった3分野で双方の間で今後協力していく計画で、この3分野ですでに企業間のマッチングが行われており、今後のベンチェー省と同県の経済交流関係の発展が期待されます。
※本文中の統計はベトナム統計総局(GSO)及びベトナム商工会議所(VCCI)が公開している統計などを参照しております。最新の統計は各機関が公開している情報をご参照ください。

